どれだけ走ったことだろう


辺りはもう、真っ暗になってしまっていた






8 優しい温度





昼に研究室を飛び出してから。


俺は今日の講義を全部サボって。


走りつづけていた。


―何がしたいんだろう


それは分からない。何も。分からない。


だた扇谷に、失言を謝らなきゃならない。


今、すぐ…




走り回りながら、色々なことを思い出す。


初めて会ったのは、何処だっけ…


姿を見たのは、何処だっけ…


最後に会ったのは…何処だっけ…。



今まで扇谷に会った場所を、全部訪ねてみた。

だけど…


「…どこ、行ったんだよ…」


扇谷を見つけることは出来ない。



「何で…会いたくない時に出てきて、会いたいときは…いなくなるんだよ…」



ぺたんと、膝をついて。

俺は地面に座り込んでしまった。



「知らねぇよ…あんな…事情…」



目頭が熱くなった。

両目を強く擦って。



「…バ、カ…野郎」




濡れた眼に、布が押し当てられた。


「…ぅ」


それは吸収の悪い、ジージャンで。



「―――っ!?扇谷…っ!?」





反射的に、振り返ると。

そこには黒いサングラスに、黒い帽子を被った男。



彼は…驚いた様子だった。

俺に名前を呼ばれたからか。


…だけど。

そんなことを気にしている余裕はなかった。



俺は気が動転していて。




「扇谷…ッ、扇谷…!ゴメン、俺…なんにも知らなくて…だから、お前に、悪いこと…」




至近距離で、初めて見えた、扇谷の眼…

なんて、優しい眼。


その眼が切なそうに歪んで、俺の体を抱きしめた。









―――――暖かい






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